2012年5月14日月曜日

地上の楽園☆: 銀星号事件の謎



学生時代から、疑問だったんです、

シャーロック・ホームズの『銀星号事件』、ご存知でしょうか。


(余談ですが上の挿絵、真ん中の乗り役の服装が今と全く同じで、なんだか笑ってしまいませんか^^?)

銀星号という人気の競走馬が厩舎からいなくなり、外で調教師が亡くなっていて、その近くにはネクタイと特殊な手術用メスが落ちていた、というストーリー。

その真相は・・・といきなりネタばらしになりますが、もはや古典ということでご容赦下さい。

実はその調教師が悪い奴で、レースで不正を働こうと、夜中にこっそり銀星号を外につれだし、馬が速く走れないようhamの腱を傷つける手術をしようとして、蹴られた、で、馬は逃げちゃった、というものでした。

そこで私がひっかかった疑問は、いったいこの人は一人でどうやってどこを手術しようとしたのだろう?、ということ。

"ネクタイは馬の� ��を固定するのに使うかもしれないと思って拾ったのだろう"とホームズも言っていますので、ネクタイを馬の保定に使ったとすると、片方の前足を折り曲げて縛る、ということしかないように思います。

片方の前足をネクタイで縛って馬を三本足で立たせ、後足のどこかにメスを入れようとしたのだろう・・・どこに? hamの腱って?

ホームズによると、"傷痕が残らないように皮下で、馬のhamの腱に小さな切れ目を入れる、そうすると馬は少し跛行するようになるが、犯罪とは気付かれない"ということです。

実は、ここのことではないか、と直感的にひらめいた部位があるのですが、それは後ほどにして。

意外にも、このhamというのが解剖図にも馬関係の本にも載っていなくて、困りました。


剣魚livebearersは何ですか?

ちなみにリーダーズ英和辞典では、
 ham :a(豚の)腿(の肉),ハム(←あの、食べるハムですネ!)
    b 腿の後部,腿とお尻.
となっています。

オーストラリア人のグルームさんに聞いてみましたところ、人では太ももの後ろ側をhamというけれど、馬のhamとは言わない、と、かなり考えてのお答え。

でも、ホームズ本にはしっかりhorse's ham、とあるし、もしかするとイギリスではそういう言い方があるのかな? 

そこで今年になって、馬外科の大先生にお聞きしてみました
(くだらない質問を!恐縮!)

毎日何頭もの手術をされて命を助けていらっしゃる馬医療界のブラックジャックみたいなかっこいい先生ですが、私が
「あの〜、たぶん、馬を3本足で立たせて、一人で後足を手術しようとしたと思うんですが……」
とおそるおそる申し上げますと、、、吹き出されました。

「ハッハッハ!蹴られて当然ですね!」

そして、hamの腱とはどこでしょうか、というのには、う〜んハムストリングスあたりのことかな、と先生も特定しかねたご様子でした
(当然でした、すみません)

人でハムストリングスとは半腱様筋、半膜様筋、大腿二頭筋のことだそうで、馬でも半腱様筋、半膜様筋は、後肢の推進力に大事な筋肉として知られています。

しかし・・・これらの筋肉の位置はもしメスを刺したなら、傷が外から丸見えなのでは…?

そこで、私が思った手術部位は、膝です。

右手をおかれているところが膝関節ですが、馬の膝はこんなところにあるのですね。


リトルフォールズニューヨーク州にある寄宿舎

馬はここの膝の皿"膝蓋骨"が、立っているときには大腿骨に引っ掛かり、ほとんど筋肉の力をつかわないで立っていられるようになっているのですが、なかにはこの引っ掛かりがキツい馬がいて、歩こうとしても膝が曲がらないことがあります。
そんなときは一旦馬を後退させると、ひっかかりがとれて歩けるようになることが多いのですが、
程度がひどい場合は、膝の内側の方で皿を支えている靭帯を切る手術法があるのです。
(実際には手術はあまり推奨されず、保存療法が薦められているようですが)

皮膚をほんの1センチくらい小切開したあと特殊なメスを皮下に入れて靭帯を切る、という手術方法はホームズの言っていることと似ているし、膝の内側なので、傷痕が外から気付かれにくい、という条件にもあっているのではないか、と。

つまり、サー・アーサー・コナンドイルは、この短編を書くにあたって、誰か知り合いの獣医師から馬のこの手術のことを聞いて、トリックを思いついたのではないか。

なーんて、勝手な想像をしていたのですが、

先程のグルームの人に、馬の膝を指して、
「この辺もhamに入る?」
と聞くと、悩みながらも入らない、とのこと。

残念、見込み違いかな、と思いつつ、こんな写真も見つけました。

本格ハムをつくるときのブタモモ肉(ham)だそうですが、これで見ると膝関節も含まれていませんか?
慣習的に、このあたり全体をhamと言うのなら、膝を指したこともありえる…?

結局どうなんだろうなー、と思いながら(しつこい!)、アメリカで乗馬をされている人にもお聞きしました。


五大湖でサーフィンする方法を学ぶ

そうしますと、アメリカでもham は食べるハムのことで、馬の身体の部位を指す言葉ではないそうです、そしてまたこんな記事も紹介してくださいました
(ありがとうございました!)

なあんと、聖書に「(主は)敵の馬の後足の腱を切れ、と言われた」ということが書いてあるのだそうです!
(ヨシュア記11.6)

ひゃ〜びっくり〜!!

まさに、馬が速く走れなくするためにこういうことをやったらしいですが、

さらに驚いたことに、"hock"や"hamstrings"という単語自身に、『飛節の腱を切る』という意味があるのだそうです。
(あわてて見るとリーダーズでも載っていました〜!)

これから見るに、聖書の時代から、馬のhock、飛節付近の腱を傷つけて走れなくする、ということが(戦争で?)行われてきたようですね〜(トリビア〜へえ〜!)(←古い)

コナンドイルも、聖書でこのエピソードを知っていた可能性は十分あるでしょう。

ですのでこれがトリックのネタになったのかもしれない。

やはり大先生のおっしゃられたように、ハムストリングスか飛節の腱を指していたのかも〜、と思いながら、

犯人が使ったメスはどんなものだろう? と。
というのも、膝蓋靭帯を切るのに、切腱メスを使うのですね、
もしや"特殊な手術用メス"が、それににていないかな、と一縷の望みをかけて。

こういうビデオを図書館で見つけてみました。


(このドラマ、渋くていいのですがホームズとワトソンが老けているのが不満だ〜)

これにしっかり、メスが映っていました、アイスピックの先5ミリほどが平たくつぶれたような、小さいメスでした。

膝の靭帯を切るメスとは、やっぱちがう・・・


さらに私の説に不利なことですが、私の言っている膝では「靭帯 ligament」なのに対し、本文中で傷つけるのは「腱 tendon」と書かれています、医師の資格を持つドイルが、これらを混同することはないようにも思えます。

やはり、作者は飛節の腱(人のアキレス腱にあたるところ?)をイメージしていた可能性が、高いように思えますね、コナンドイルが馬の獣医さんからネタを仕入れた、という説もちょっと捨てがたい気もしますが。

さてさて、しかしこのビデオを見れば、手術シーンがあるだろうし、どこにメスを入れようとしたか一目瞭然のはず。

目を皿のようにして観ました、するとドラマではホームズは「ham」とは言っていません、そして再現シーンでは、悪者は� �胆にも屈みこんで、立っている馬の後肢の球節の上、浅指屈腱にメスを刺そうとしていました・・・

それは、いくらなんでも無謀というものでしょうよ!!!

追記

馬の後肢は真面目に危ないです、実は私もオオタ部長のことは言えない、後ろに吹っ飛ばされてハゲができたことがアリマス(ToT)
関係者の皆様はくれぐれもご注意下さいませ。



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